サンダルごしに伝わってくる白砂の押し返してくる感触が小気味よい。
いつもより風が強い。毛布を胸の前であわせる。
砂浜に白い貝殻がひとつ転がっていた。
先端の長い細い巻貝の貝殻。
立ちどまる。
拾おうかどうしようか迷って、拾わないことにする。
でも、と呟く。
明日の朝、またここへ来て、同じ場所に転がったままでいたら、
コレクションに加えるべく持って帰ろう。
口もとをほころばせる。
(「潮風の家」より)
小さな奇跡と小さな幸せ、添えておきました
すこしふしぎで、とても優しい物語。一冊にまとめました
『そえもの 添田健一物語集』
著者:添田健一
表紙:松下利亜
編集:秋山真琴
発行:雲上回廊
頒布:第一回「文学フリマ金沢」い-19 雲上回廊
日程:2015年4月19日(日)
価格:300円
判型:A6(文庫本)
頁数:72ページ
部数:100部
海からの風が、夜明けの潮の匂いを家のなかへそっと運びこんでくる。白い更紗のカーテンが持ちあがる。風は、室内の寝椅子に横たわっているメイの首筋から鼻先へと曲線を描いて通り過ぎる。
また風が吹く。今度は睫毛の先をかすめる。ゆっくり目をさます。ゆうべのワインの残りが、まだ彼女のなかをめぐっている。宿酔いと呼ぶには軽くて、むしろ刺激が心地よいくらいだ。
毎朝のことながら、レイはまだ目を醒ましていないようだ。寝椅子のメイには毛布がかけられている。自分でしたのかレイがかけてくれたのか、おぼえていない。風がしきりに吹いてくる。太陽も出ている。身を起こし、毛布を身体に巻きつける。リンネルだけでは少し寒い。お気にいりのサンダルを突っかけて、外に出る。
すがすがしい朝だった。太陽が水平線の向こうからあがろうとしていた。まぶしくて目を細める。波の音。潮風の涼しさが酔いの残っている身には快い。そのまま海辺を歩く。
(本文6ページより)
【購入方法】
『そえもの 添田健一物語集』は雲上回廊より発行しております。文学フリマ等の即売会で直接販売をおこなっております。
また、下記の書店様で取り扱っていただく予定です(取り扱い開始日未定)。
・架空ストア(吉祥寺)
・古書 音羽館(西荻窪)
・古書 ますく堂(池袋)
・盛林堂書房(西荻窪)
(50音順、敬称略)
電子書籍版も予定しております。
【リンク】
添田健一さんのブログ:西荻看書詩巻