中国、北宋時代。京師(みやこ)開封(かいほう)にて、
不正高官たちの連続怪死事件が発生。
捜査に乗りだしたのは、
公正な裁きから「包青天」と呼ばれる包拯(ほうじょう)配下の若き護衛官、展昭(てんしょう)。
彼の前に美貌の女剣客、丁月華(ていげっか)と謎めいた童女の迷迭香(めいてつこう)があらわれ、
物語は幕を開ける。
頭脳明晰な法医官、四人の校尉、冥府の貴臣、
不穏な動きを見せる善悪さだかならざる男女。
多彩な人物たちが入り乱れるなか、事件は予測外の展開へと流れゆく。
極上の武侠エンタテインメイント開幕!
『迷迭香 第一巻 迷の章』
著者:添田健一
装画:山下昇平
編集:秋山真琴
発行:雲上回廊
頒布:第二十一回「文学フリマ」D-01,02 雲上回廊
日程:2015年11月23日(祝月)
価格:600円
判型:A6(文庫本)
頁数:148ページ
部数:200部
【編集部より】
『迷迭香 第一巻 迷の章』は、『墨妖』の添田健一と山下昇平タッグによる最新作です。全3巻構成で、2巻は2016年1月、3巻は2016年5月発行予定です。
本作は中国の古典小説『三侠五義』に現代日本風のアレンジを加えた翻案作品となります。『三侠五義』は中国清代に書かれた公案小説と武侠小説を組み合わせたもので、公案小説要素(公明正大なる裁きで、物事を正す)と武侠小説要素(義理人情に厚い武人が、悪人をこらしめる)を兼ね備えた作品です。
金属音が響いた次の瞬間、匕首が青空高くへと舞っていた。はね飛ばされた匕首はそのままなおも高くへあがり、遠い芝生の上に落ち、むなしく転がる。
若き武芸者の高くかかげた右手に白刃が輝いていた。細身の剣。大男の匕首を飛ばし、きりりと口許を結び、その瞳は爛爛と輝き、なおも応小吉を見据えている。背後に迷迭香をしかとかばっていた。童女の手には朱色の手毬がもどっている。このときばかりはさすがに無表情ではなく、目を見開いて、眼前の光景を見つめて、動けぬままでいる。口もぽかんと開けている。この歳頃にしては、いささか冷静すぎではあるが、顔には驚きがあらわれている。
近くまで駆け寄っていた展昭もいささか面食らっていた。ひた走っていたさなかだったとはいえ、匕首が飛ばされる瞬間が見えなかった。刃さえ目に映らなかった。高くかかげた剣を見て、はじめて武芸者のしたことがわかった。それほどすばやい剣の抜きかただった。ただものではないと踏んでいたが、その力量は展昭をしてたじろがせるものだった。
応小吉も驚きに目を見はっていた。手に怪我は負っていない。痛みもおぼえたものかはわからない。ただ、信じがたいものを見る目つきで動けずにいる。
たったひとり、武芸者だけがいさましい顔立ちで剣をかかげて、構えている。流れる所作で剣を鞘にもどす。
(本文83ページより)