世界から世界へ飛び跳ねるように旅する存在。
渡り鳥ソーマ、傭兵ラビット、フリーター走馬小太郎。
様々な名を持つ彼は、
年代記にいずれの名も残さず、何もかもから解放されている。
だが自由であることは、同時に孤独であることを意味する。
歴史の表舞台に現れることはなく、
物語の主役として語られることもない。
そんな彼に敢えてスポットライトを当てた作品集。
題名は、山吹色外典。
或る雲上人が記す、ありえたかもしれない旅の記録。
いかなる世界からも拒絶され、
放浪を続けるしかなかった哀れな渡り鳥が、
最愛の想い人と過ごす宿り木を見つけるという、
ハッピーエンドの物語。
『山吹色外典』
著者:秋山真琴
装幀:宵町めめ(くらやみ横丁)
発行:雲上回廊
頒布:第十九回「文学フリマ」ウ-01 雲上回廊
日程:2014年11月24日(祝月)
価格:1000円
判型:A6(文庫本)
頁数:208ページ
部数:100部
少し火を強める。料理酒、醤油、みりんを蒸発させることで、その旨味を封じ込めるのだ。白かったゴボウの芯が、見る間に飴色に染まり、にんじんの鮮やかな色彩が映えるようになる。ここまで来たら、後はのんびり煮詰めるだけだ。菜箸でかき混ぜながら、煮汁が具に吸い込まれてゆくのを待つ。そうして、充分に味が染み込んだところで火を止める。
もくもくと立ち昇る湯気と共に、美味しそうな匂いが部屋中に広がる。ここで、即座に皿に盛ってしまうのは素人のやることだ。この、最後の一瞬。熱が抜け、冷めていく際に、最後の止めと言わんばかりに、味がぎゅっと染みこんで、さらに旨味が増すのだ。
それに匂いの効果もある。空腹は最高の調味料と言うが、この匂いによって刺戟された食欲が、この料理の味を、さらに高みへと持って行ってくれるのだ。
背中に感じる視線をひしひしと感じながら、ゆっくりと皿に盛り付ける。
並行して土鍋で炊き上げ、じっくりと蒸らしていた白米を茶碗へとよそっていく。おお、いい具合に、米の一粒一粒が光り輝いている。
お盆に一式を載せて振り返ると、令はちゃぶ台の前で正座していた。
「待たせたな、令。お昼は、きんぴらごぼうだ」
「やったー!」
(本文185ページより)
【目次】
「まえがき」
「激辛無銭飲食列伝」
「メメント・モリ」
「Re:World 2.5」
「エンドオブエンドリオン」
「夜歩く者/剣駆る者」
「山吹色奇譚」
【購入方法】
文学フリマ等の即売会で直接販売をおこなっております。
また、下記の書店様で取り扱っていただいております。
・架空ストア(吉祥寺)
・古書 ビビビ(下北沢)
・双子のライオン堂(白山)
・タコシェ(中野)
(50音順、敬称略)
通販での購入も可能です。
電子書籍版も予定しております。
【誤植】
・「登場人物紹介」に「百色眼鏡(ももいろ・めがね」が抜けておりました(電子書籍版修正済み)。